「高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」についてのご照会
別紙 2
日生協16発第18号
家禽疾病小委員会
________ 殿
平成16年8月10日
日本鶏卵生産者協会
会 長 梅原 宏保
「高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」についてのご照会
去る7月21日(水)に開催された「食料・農業・農村政策審議会消費・安全分科会第2回家畜衛生部会」におきましては、生産者代表からは明確な反対意見が表明されたにも拘わらず、「 高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」(以下防疫指針という)が多数意見として採択されました。また、防疫指針の原案を作る家禽疾病小委員会の8回に渡る 審議においても生産者代表の参加及び意見表明は一度も認められませんでした。
家畜衛生部会、家禽疾病小委員会において、この問題に最も関係があり且つ、業界の実情に精通している生産者代表の意見が全く無視された状態で、業界の実情や世界の鳥インフルエンザ防疫対策の最新動向に理解を示さず、しかも科学的な事実関係を示さずに防疫指針が決定されたことは、全国の養鶏生産者・関係者にとりましては全く遺憾であり納得ができないことであります。
我々はワクチンの予防的使用を認めないこの防疫指針では、今後においては鳥インフルエンザが養鶏密集地帯で再発生する可能性は極めて高いと考えており、その場合には、諸外国の例からみても数百万羽、数千万羽の鶏を淘汰・埋却しなければならない事態となる恐れは十分にあると思っております。その場合、日本の実態からみてもおそらく収拾のつかない社会的な大混乱となり、発生地域の養鶏産業が大打撃を受けるのみでなく、全国の鶏卵・鶏肉消費は激減し、日本の養鶏産業が回復不可能なまでの打撃を受けると考えています。また、本病発生により膨大な量の野外ウイルスが爆発的に環境中に放出され、その結果として、むしろ、人感染ウイルス出現の危険性を増すだけであるとも考えています。
生産者をはじめ、その家族、従業員及び関連産業従事者など数十万人にも及ぶ関係者の生活がかかっている、このような重要な防疫指針が、生産者や養鶏業界に事前に納得できる説明が全くないまま一方的に決定されましたが、その結果影響を受けるのは生産者であり、養鶏産業であります。
つきましては、貴殿が家畜疾病小委員会委員の一員として
① | いかなる根拠に基づいてこの防疫指針に賛成されたのか。 |
② | もしこの防疫指針に基づく防疫対策の結果、我々が懸念しているように鳥インフルエンザが大発生し、養鶏業界に壊滅的な打撃を与え、国民の食と生命の安全に関する社会パニックが起きた場合の責任は誰に帰すのか、お聞かせいただきたいと思います。 |
このような現実と乖離した防疫指針となった背景には、日本においてはウイルス研究は非常に優れていても、大規模な野外発生事例についての実務経験及び疫学的研究が少ないことが、大きな原因であると思います。しかし、最大の問題点は、当事者となる養鶏生産者が家禽疾病小委員会に参加し発言する機会を全く与えられず、また再三に渡り農水省担当部局に生産者の意見を具申しているにも拘わらず、その意見が全く今回の防疫指針に反映されなかったことにあると思います。
我々生産者は、生産者エゴに基づく根拠のない一方的な発言をしている訳では全くありません。日本において検討中の防疫対策としてのマニュアルが生産現場の実務経験に照らしてみても全く納得できるものではなかったため、鳥インフルエンザ対策の先進国のイタリアに2回に渡り調査団を派遣し、ワクチンの予防的使用を含めた防疫対策をつぶさに学ぶとともに、米国、メキシコなどの情報についても現地に赴き情報収集に努め、またOIEやWHO、FAOの動向及び最新の勧告等についても情報収集を行なってきております。今年6月15日にはイタリア、香港から鳥インフルエンザ制圧作戦に加わった経験を持つ、専門家3人を招き、国際シンポジウムも開催しました。
そしてこれらの情報収集から分かったことは、ワクチンを防疫対策の重要な柱とした鳥インフルエンザ対策が世界の流れであり、我々現場の実務経験に照らしても、また理論的にも納得できるものであることです。これに比べ現場の実態から遊離した日本の防疫対策がいかに世界の最新の動向から乖継しているかを痛感した次第です。
検討を進めると、何故にワクチンの予防的使用が問題であるのか全く理解できなくなります。世界の最新の知見や実践を見ても、ワクチンは鶏の感染に対する防御力を高め、もし感染しても環境へのウイルス排出量を激減させるため、人感染ウイルスの発生の可能性も減少させることになります。野外感染とワクチン接種による抗体の鑑別もDIVAシステムを導入すれば容易に解決できます。また、海外では既に高品質のワクチンが開発されており、ワクチン接種により大量の鶏の殺処分、淘汰による経済的損失、環境に与える悪影響、動物愛護問題からの批判にも配慮できること等は明らかです。以上のことについては頻繁に行政担当部局等に伝えていますが、結果的には全く無視され、なぜワクチンの使用が問題とされるのかについての納得できる説明がなされたこともありません。
今回の防疫指針は、防疫レベルの高い日本には容易に鳥インフルエンザは侵入するものではない、また、万一侵入してもバイオセキュリティを徹底することにより局地的に封じ込め制圧できる、もしそれでも制圧できない場合はその時点でワクチンを使用すればよい、という非常に楽観的な見通しに立脚しているように感じます。
そのように仮定するならば、アジア地域にはかってない高いレベルで鳥インフルエンザがまん延し、その地域と人、物、渡り鳥が頻繁に往来する国際化時代のなかにあって、何故鳥インフルエンザが侵入する可能性が低いのか、科学的な根拠に基づいたリスク評価を行なって示していただきたく考えています。
また、万一我が国に侵入しても局地的な封じ込めが可能であるというなら、半径数キロの範囲に数十箇所もの養鶏場があり、1箇所数十万羽から100万羽規模の養鶏場も珍しくない養鶏密集地帯において、局地的に封じ込める具体的な対策と、その根拠を示していただきたいと思います。例えば大規模養鶏場に発生した場合、数十万羽、数百万羽の鶏を迅速に淘汰することが出来るのか、移動制限範囲内の膨大な鶏卵や鶏肉をどう処理するのか、発生後にワクチン接種しても、免疫効果の発現までに少なくても接種後3週間以上も要することから、果たして発生してからの接種でまん延の防止効果があるのかなど、疑問点は多数ありますが、これまで納得できる説明を受けたことが全くありません。
以上のことから失礼をも省みずこのような問題を抱える防疫指針について、上記2点の質問をさせていただきました。ご多用中のこととは存じますが、ご見解等につき下記宛早急なる回報を賜りますようお願い致します。
日本鶏卵生産者協会の住所
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