高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針の再検討についてのお願い

別紙



●再検討を要望する理由
1.  「高病原性鳥インフルエンザ防疫指針」については過去1回開催された家畜衛生部会および過去8回にわたって開催された家きん疾病小委員会において、延べ9回に渡り審議がなされて来た。しかし、この過去9回の部会、委員会には実際影響を受けることとなる生産者側の発言できる機会は1度も与えられず、生産者団体はやむなく第8回目の家禽疾病小委員会に文面にて意見を申し入れたが無視された結果になっている。
  このような経緯のもとで作成された原案を正式に承認するための第2回目の家畜衛生部会への生産者代表の招聘は、生産者の意見も聞いたという形式的なものであり、しかもその際における当方の意見も全く聞き入れないまま決定したことは重大である。

2.  今回決定された防疫指針の内容は、アジアおよび日本での高病原性鳥インフルエンザの発生状況を考えると、本病の発生を防止するに値する科学的な事実関係に基づく内容とはなっていない、と言わざるを得ない。その理由は以下の通りである。
 
2004年4月13日からアルゼンチン・ブエノスアイレスで50ヶ国、300人を超える科学者が参加してOIE国際会議が開催された。この会議において、鳥インフルエンザ防疫対策として、ワクチンを使用しない根絶作戦で、2001年以降東南アジアで1億羽以上、世界で1億8千万羽の家禽類が淘汰、殺処分されているが、これ以上の殺処分をすることは倫理的にも生態学的にも経済的にも受け入れ難い。ワクチン使用による疾病の予防とコントロール、根絶を考えるのが科学者の役割である、との勧告を出している。今回の防疫指針はこの勧告を全く無視するものである。

高病原性鳥インフルエンザの発生、流行は世界の中でもアジア地域が最も激しい汚染地域であり、我が国もその地域の中にあって既に汚染国となった。本年発生した4件の事例は、感染源ウイルスが渡り鳥等により国境を超えて我が国に侵入して来たことが、感染経路究明チームの報告でも明らかである。従って、国際機関(FAO)が指摘するように、アジア地域での流行が収まらない現状を考えると、今冬の流行期には無数のウイルス侵入が予想されるが、そのような事態への対処方法はバイオセキュリティーの強化とともにワクチンの予防的使用を含めたあらゆる手段を講ずることが世界における伝染病対策の常識である。しかし、「防疫指針」は消毒を中心とする衛生管理のみで防御できるとしており、その具体的な科学的根拠が示されていない。

我が国養鶏産業の立地実態を見ると、半径数十キロの範囲内には500~1000万羽以上の鶏を飼育する養鶏密集地帯が全国に10ヶ所以上もあり、衛生管理の強化のみで対応した場合には、この密集地帯での発生が海外の発生事例からも十分に予想される。このような事態に遭遇した場合、大量の殺処分、埋却またワクチンの緊急接種は現実的にも物理的にも不可能であり、その時には数千万羽の家禽の処分もあり得る。このような事態になった時の、責任は一体どこに帰すべきなのか。

ワクチンの予防的使用については、防疫指針では感染時の重症化を抑制するとし、ある程度の効果は認めているが、生産者が無秩序に使用するとの前提に立ち極めて懐疑的である。また、ワクチンを不使用とする理由およびワクチンを使用した場合のリスク、デメリットが果たしてなんであるのか不明確であり、又科学的根拠が示されていない。しかし、今日では極めて高い性能と品質のワクチンが既に開発されており、ワクチン使用のメリットは認められるものの、リスク、不都合については殆どないと思われる。既に米国政府は大量のワクチン備蓄の開始を決定した。感染経路究明チームの報告にもあるように、伝染病予防の三原則のひとつである感染源としての動物を少なくする意味でも、ワクチンの予防的使用による効果を期待するのが常識であると思うが、このことに対する説明が全く無い。「防疫指針」が示す発生してからの使用ではワクチン効果の発現が相当に遅延するため、本来の目的が達成できないことになり本末転倒している、と思わざるを得ない。

今回の「防疫指針」では本病再発の危険性は極めて高く、その発生時には養鶏関係者は多大な犠牲を被ると同時に、我が国の養鶏産業は崩壊の危機に見舞われる可能性が大である。こうしたことにもかかわらず、このような状態を想定した事前のリスク評価も全くなされていないことは無責任であると言わざるを得ない。


 

●生産者団体(日本鶏卵生産者協会)の要望
1.  今回の「防疫指針」が発生阻止、まん延防止の目的達成が不可能な内容になっている大きな原因は国際的視野に立って検討できる実務経験を有する疫学専門家が参加していないこと、産業実態を最も認識し且つ、最も影響をうける生産者団体の意見を全く無視していることの2点にある。したがって、至急、海外の科学者を含めた疫学専門家および生産者団体を中心とした幅広い、開かれた検討会を再開し、全国民が納得できる指針を作成すること。

2.  OIEの勧告にもあるとおり、本病の撲滅のための家禽の大量殺処分は最早、世界の非常識となっている。世界では既に優秀なワクチンが開発されているので、一刻も早く輸入、大量備蓄すると共に責任ある生産者団体と国の管理の下で予防的なワクチン使用を認めること。

3.  本病の予防、撲滅の基本はモニタリングによる「感染鶏の早期発見と淘汰」およびワクチンの予防的使用を含めた、あらゆる防疫措置を秩序だって実施することである。特に淘汰時における補償問題はモニタリングの強化にもつながる重要な課題である。その点を強化するために現在、生産者団体が実施している「鳥インフルエンザ生産者互助基金」に対して豚、牛と同様に、国による積立金の2分の1の支援を行うこと。


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