鶏のQ熱に関する第2回国内実態調査結果について

鶏特定疾病予備調査報告書
(その2)
(中間報告)
平成15年10月





財団法人 畜産生物科学安全研究所



試験の表題
  鶏特定疾病予備調査(2回目)

試験委託者
 
名    称 社団法人 日本養鶏協会
所 在 地   東京都中央区新川二丁目6番16号 馬事畜産会館内
代 表 者   会長代行 梅 原 宏 保
委託責任者   専務理事 島 田 英 幸

試験実施施設
 
名    称 財団法人 畜産生物科学安全研究所
所 在 地   神奈川県相模原市橋本台3-7-11
代 表 者   理事長 石 井 達 郎
試験責任者   生物工学研究部 部長 村松 昌武
試験担当者   主任研究員 西村 昌晃
研究員 矢後 啓司、戸谷 有美

試験期間
  平成15年8月~平成15年10月17日


要約
 我が国で飼育されている採卵鶏の中から33道府県の41養鶏場の406羽を抽出し、Coxiella burnetii II相菌に対するIgG抗体保有状況を間接蛍光抗体(IFA)法により調べた。
 その結果、被験血清のIFA抗体価は、1羽(1/406:0.25%)が32倍で、陽性と判定されたが、その他は全て16倍未満であり、抗体陰性と判定された。また、抗体陽性鶏の血清、抗体陽性系が産出した卵7個について、PCR法によりC.burnetii 遺伝子の検出を試みたが、検査結果はいずれも陰性であった。
 以上の成績から、今回の調査対象とした33道府県の41養鶏場から送付された406検体の血清では抗体陽性率は0.25%であった。一方、抗体陽性鶏が産出した卵からC.burnetii 遺伝子は検出されなかった。


1. 調査(試験)目的
 この調査(試験)は、我が国で飼育されている採卵鶏の中から33道府県の410羽を抽出し、Coxiella burnetii に対する抗体保有状況を調べる目的で実施した。

2. 試験材料及び方法
  1)血清の間接蛍光抗体法による抗体価の測定
(1) 試験材料
 
鶏血清
   2003年8月から9月に別紙1の道府県で採血された産卵中の鶏血清406検体を用いた。対象とした鶏410羽のうち4羽の血清は送付されなかったため検査できなかった。
   
C.burnetii 抗原
   間接蛍光抗体(IFA)法の抗原は、次のように調製した。
 C.burnetii Nine Mile 株II相菌(ATCC VR615)をBuffalo green monkey(BGM)細胞で3~5日間培養し、培養上清を回収した。回収した培養上清を4℃、7,500rpmで60分間遠心し、沈査をリン酸緩衝食塩液(PBS)に浮遊させた。
 浮遊液は4℃、1,500rpmで10分間遠心し、その上清を回収した。一方、沈査には適量のPBSを加えて攪拌した後、ピペッティングにより沈査を崩し、再度4℃、1,800rpmで15分間遠心して上清を回収した。以上の操作を再度繰り返し、回収した全ての上清を4℃、8,000rpmで60分間遠心した。
 次に、得られた沈査を少量のPBSに浮遊させ、30%スクロースを含む7.6%ウログラフィン(日本シェーリング社)加PBSに重層し、4℃、10,000rpmで60分間遠心した。得られた沈査をPBSに浮遊させC.burnetii の粗精製浮遊液とした。
 C.burnetii 粗精製浮遊液にホルマリンを0.2%となるように加え、不活化したものを抗原原液とした。
   
FITC標識アフィニティ精製抗IgG血清
   IFA法における二次抗体としてFITC標識アフィニティ精製抗鶏IgGヤギ血清及び抗兎IgGヤギ血清を用いた。
   
陽性対照抗体
   陽性対照血清として、岐阜大学農学部獣医学科 家畜微生物学講座から分与された抗C.burnetii 兎血清(IFA抗体価1,024倍)及び当研究所で作製した抗C.burnetii 鶏血清(IFA抗体価6,000倍)をそれぞれIFA価16倍に希釈して用いた。
 
(2) 試験方法
   抗体の測定は、IFA法により行った。
 
至適抗原濃度及びFITC標識抗体濃度の決定
   抗原原液を10倍~80倍、FITC標識抗体を100倍~800倍に希釈し、64倍に希釈した参照陽性血清を用いてBox タイトレーションにより至適抗原濃度及びFITC標識抗体濃度を求めた。
 その結果、抗原は20倍希釈、FITC標識抗体は200倍希釈して用いることにより、蛍光が明瞭に観察され、陰性血清で非特異反応が観察されなかったことから、スライドグラスに固相化する抗原は、抗原原液を20倍希釈して用いた。また、FITC標識抗体は200倍希釈液を用いた。
   
IFA法による鶏血清の抗体測定
   抗C.burnetii 抗原原液を0.05mol/Lトリス緩衝液(Tris-HCl、pH7.1)で20倍に希釈し、24穴スポットスライドに点置(約3~5μL)し、乾燥させた後、メタノールで15分間固定した。被験血清は、スクリーニング検査ではPBSで16倍に希釈し、各抗原固相化スポットに10μLずつ滴下し、37℃で30分間湿潤箱内にて反応させた。対照陽性血清についても同様に反応させた。その後、PBSで5分間3回洗浄し、PBSで200倍に希釈したFITC標識アフィニティ精製抗鶏IgGヤギ抗体又は抗兎IgGヤギ抗体を各抗原固相化スポットに10μLずつ滴下し、37℃で30分間湿潤箱内にて反応させた。PBSで5分間3回洗浄した後、精製水で5分間洗浄し、風乾、50%グリセリン加PBSで封入後、蛍光顕微鏡で観察した。スクリーニング検査で特異蛍光が認められた血清検体については、血清を2倍~2,048倍まで2倍階段希釈し、同様に反応を行った。
 明らかな特異蛍光が認められた血清の最高希釈倍数の逆数を抗体価とし、平井1,2)に準じて、抗体価16倍以上を陽性、16倍未満を陰性とした。
 
2)抗体陽性鶏が産出した卵及び血清のPCR方によるC.burnetii 遺伝子の検出
 
1) 試験材料
  抗体陽性鶏が産出した卵7個及び抗体検査に用いた血清を検体とした。
   
2) 試験方法
   C.burnetii 遺伝子の検出に用いたPCR法はZhang3)らの方法に準じた。
 即ち、検体の前処理は、全卵をPBSで5倍乳剤とした後、1,400×gで4℃、30分間遠心して上清を採取した。採取した上清を10,200×gで4℃、60分間遠心し、上清を捨て、沈澱に少量のPBSを加えて懸濁させた。この浮遊液を12,000×gで4℃、60分間遠心して上清を捨てる。沈殿をTNE緩衝液に懸濁させ、これにProteinase K 溶液を加え、37℃で一夜処理した。
 DNAの抽出は、Proteinase Kで処理した試料についてフェノール・クロロホルム法により行った。
 PCRは、Nested PCR法により行った。第一段階のPCRにはプライマーとしてOMP1 及びPMP2を用い、反応条件は94℃10分、94℃1分・54℃1分・72℃1分を36サイクルとし、第二段階のPCRにはプライマーとしてOMP3及びPMP4を用い、反応条件は第一段階と同様とした。
 PCR増幅産物の確認は、アガロース電気泳動を行った後、エチジュウムブロマイドで染色し、紫外線照射して観察した。

3. 調査結果
   被験鶏血清のIFA抗体検査結果を表-1、血清及び卵のPCR検査結果を表-2に示す。
 被験血清のIFA抗体価は、1羽(1/410:0.24%)が32倍で、陽性と判定されたが、その他は全て16倍未満であり、抗体陰性と判定された。
 抗体陽性鶏の血清、この鶏が産出した卵7個のPCR法による検査では、いずれも陰性であった。

4. 考察
   我が国で飼育されている採卵鶏について、33道府県の41養鶏場から406羽を抽出して、C.burnetii II相菌に対するIgG抗体保有状況をIFA法により調べた。また、抗体陽性鶏の血清、及び抗体陽性鶏が産出した卵7個について、PCR法によりC.burnetii 遺伝子の検出を行った。
 今回調査した養鶏場から採取された鶏血清のIFA抗体価は、1羽の血清が32倍で、陽性と判定されたが、これ以外の405検体は全て16倍未満であり、抗体陰性と判定された。なお、今回抗体陽性であった1羽は、第1回目の調査対象鶏と同一個体であり、第1回目の調査では抗体陰性であった。
 平井2)によれば、鶏では1,589検体中2%が抗体陽性であったとされている。今回の調査の検体数は、410であり検体数が少ないものの抗体陽性率は0.25%と低かった。
 C.burnetii の感染環の第1は、ダニ-野生動物(含む鳥類)-ダニで、第2は、ダニ-家畜-家畜とされており、採卵鶏にC.burnetii の感染が起こるとすれば、この第2の感染環による場合が多いのではないかと推察される。今回の調査は、ダニ類の発生や活動が多いと考えられる夏期に行われた。冬季に実施した前回の調査では抗体保有率は0%であったが、今回の調査では抗体価32倍と低いものの抗体陽性鶏が1羽認められたことから、ダニ-家畜への感染が起こった可能性が示唆される。
 また、抗体陽性を示した鶏の血清、この鶏が産出した卵について、PCR法によりC.burnetii 遺伝子の検出を試みたが、血清及び7個の卵のPCR法による検査結果は全て陰性であり、今回の検査では、IFA抗体価32倍の鶏が産出した鶏卵からC.burnetii の遺伝子は検出されなかった。
 今後、抗体陽性鶏の主要臓器についてC.burnetii 生菌の有無を調べ、本菌の鶏における体内分布が明らかになれば、鶏におけるC.burnetii 感染の実態解明の一助になるものと考えられる。
   
 

(参考文献)
 
1) 平井克哉:日本獣医師会雑誌、46、541~547(1993)
2) 平井克哉:日本獣医師会雑誌、52、77~83(1999)
3) G.Q.Zhang et. al:J.Clin.Microbiol.36, 77~80(1998)


抗体陽性鶏の血清及び産出卵のPCR法によるC.Burnetii遺伝子検査成績

検体名 検査結果
血清 1 -*
卵 1
卵 2
卵 3
卵 4
卵 5
卵 6
卵 7

* : PCR法で増幅産物が検出されなかったことを示す。


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