鶏のQ熱に関する国内実態調査の結果について

15安全研第141号
平成15年5月14日

社団法人 日本養鶏協会
 会 長 中須 勇雄 殿

  財団法人 畜産生物科学安全研究所
 理事長   石井 達郎

 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
 常日頃より当研究所の業務運営につきましては、平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、今般、実施いたしました鶏特定疾病予備調査の結果を御報告致します。

要 約
 我が国で飼育されている採卵鶏の中から33道府県の41養鶏場から409羽を抽出し、Coxiella burnetii II相菌に対するIgG抗体保有状況を間接蛍光抗体(IFA)法により調べた。
 その結果、被験血清のIFA抗体価は、全て16倍未満であり、抗体陰性と判定された。
 以上の成績から、今回の調査対象とした33道府県の41養鶏場から送付された409検体の血清では抗体陽性のものは認められなかった。

1. 調査(試験)目的
   この調査(試験)は、我が国で飼育されている採卵鶏の中から33道府県の409羽を抽出し、Coxiella burnetiiに対する抗体保有状況を調べる目的で実施した。
   
2. 試験材料及び方法
 
1) 試験材料
  (1) 鶏血清
   2003年1月から5月に道府県で採血された産卵中の鶏血清409検体を用いた。
  (2) C.burnetii抗原
   間接蛍光抗体(IFA)法の抗原は、次のように調整した。
 C.burnetii Nine Mile 株II相菌(ATCC VR615)をBuffalo green monkey(BGM)細胞で3~5日間培養し、培養上清を回収した。回収した培養上清を4℃、7,500rpmで60分間遠心し、沈査をリン酸緩衝食塩液(PBS)に浮遊させた。
 浮遊液は4℃、1,500rpmで10分間遠心し、その上清を回収した。一方、沈査には適量のPBSを加えて攪拌した後、ピペッティングにより沈査を崩し、再度4℃、1,800rpmで15分間遠心して上清を回収した。以上の操作を再度繰り返し、回収した全ての上清を4℃、8,000rpmで60分間遠心した。
 次に、得られた沈差を少量のPBSに浮遊させ、30%スクロースを含む7.6%ウログラフィン(日本シェーリング社)加PBSに重層し、4℃、10,000rpmで60分間遠心した。得られた沈差をPBSに浮遊させC.burnetiiの粗精製浮遊液とした。
 C.burnetii粗精製浮遊液にホルマリンを0.2%となるように加え、不活化したものを抗原原液とした。
 また、参照陽性抗原として岐阜大学農学部獣医学科 家畜微生物学講座から分与された固相化抗原を用いた。
  (3) FITC標識アフィニティ精製抗IgG血清
   IFA法における二次抗体としてFITC標識アフィニティ精製抗鶏IgGヤギ血清及び抗兎IgGヤギ血清を用いた。
  (4) 参照陽性抗体
   C.burnetiiの至適抗原濃度を求める際の参照陽性抗体として、岐阜大学農学部獣医学科 家畜微生物学講座から分与された抗C.burnetii兎血清(IFA抗体価1,024倍)を用いた。
   
2) 試験方法
 抗体の測定は、IFA法により行った。
  (1) 至適抗原濃度及びFITC標識抗体濃度の決定
   抗原原液を10倍~80倍、FITC標識抗体を100倍~800倍に希釈し、64倍に希釈した参照陽性血清を用いてBox タイトレーションにより至適抗原濃度及びFITC標識抗体濃度を求めた。
 その結果、抗原は20倍希釈、FITC標識抗体は200倍希釈して用いることにより、蛍光が明瞭に観察され、陰性血清で非特異反応が観察されなかったことから、スライドグラスに固相化する抗原は、抗原原液を20倍希釈して用いることとした。また、FITC標識抗体は200倍希釈液を用いることとした。
  (2) IFA法による鶏血清の抗体測定
     抗C.burnetii抗原原液を0.05mol/Lトリス緩衝液(Tris-HCl、pH7.1)で20倍に希釈し、24穴スッポトスライドに点置(約3~5μL)し、乾燥させた後、メタノールで15分間固定した。被験血清は、スクリーニング検査ではPBSで2倍に希釈し、各抗原固相化スポットに10μLずつ滴下し、37℃で30分間湿潤箱内にて反応させた。その後、PBSで5分間3回洗浄し、PBSで200倍に希釈したFITC標識アフィニティ精製抗鶏IgGヤギ抗体を各抗原固相化スポットに10μLずつ滴下し、37℃で30分間湿潤箱内にて反応させた。PBSで5分間3回洗浄した後、精製水で5分間洗浄し、風乾、50%グリセリン加PBSで封入後、蛍光顕微鏡で観察した。スクリーニング検査で特異蛍光が認められた血清検体については、血清を8倍から256倍まで2倍階段希釈し、同様に反応を行った。
 明らかな特異蛍光が認められた血清の最高希釈倍数の逆数を抗体価とし、平井1,2)に準じて、抗体価16倍以上を陽性、16倍未満を陰性とした。
   
3. 調査結果
   被験鶏血清のIFA抗体検査結果を表に示す。
 被験血清のIFA抗体価は、全て16倍未満であり、IFA抗体陰性と判定された。
   
4. 考察
   我が国で飼育されている採卵鶏について、33道府県の41養鶏場から409羽を抽出して、C.burnetii・相菌に対するIgG抗体保有状況をIFA法により調べた。今回調査した養鶏場から採取された鶏血清のIFA抗体価は、全て16倍未満であり、抗体陰性と判定された。
平井2)によれば、鶏では1,589検体中2%が抗体陽性であったとされている。今回の調査の検体数は、409であり検体数が少ないものの抗体陽性率は0%であった。
 C.burnetiiの感染環の第1は、ダニ-野生動物(含む鳥類)-ダニで、第2は、ダニ-家畜-家畜とされており、採卵鶏にC.burnetiiの感染が起こるとすれば、この第2の感染環による場合が多いのではないかと推察される。今回の調査は冬季に行われ、この時期はダニ類の発生や活動が少ないことが、抗体を保有する産卵鶏が認められなかった理由の一つとも考えられる。
 今後、ダニ類の発生が多く、その活動も活発な梅雨期から夏期に再調査することにより、鶏のC.burnetiiに対する抗体保有状況をさらに正確に把握できると思われる。


(参考文献)
1)平井克哉:日本獣医師会雑誌、46、541~547(1993)
2)平井克哉:日本獣医師会雑誌、52、77~83(1999)

このページの先頭へ

前のページ